想いが伝わる遺言書

昨今の感染症問題が起きる少し前のお話です。

 

先日、知人の方からの依頼で、都内の公証役場で証人として遺言書の作成に立ち会いました。

遺言書を書いたのは、80代の女性。 とても小柄なその方は、小さなシルバーカートを頼りに、40代の次女と2人で待っていました。

ご主人は既に亡くなっており、離婚をして実家に戻ってきた長女と二人暮らしをしていましたが、事情がありご次女 の家族と同居するため、最近都内に引っ越してきました。

最近は遺言書を書く方も増えてきたので、ご存知の方も多いかと思います。

一般的に遺言書には「自筆証書遺 言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、15歳以上で意思能力があれば、誰でも作成できます。 遺言書を、と思われたら、ペンと紙さえあれば気軽に書ける自筆証書遺言を、とりあえず書くことをお勧めします。

 

なぜなら、この「意思能力」というのは、「物事に対する判断能力」があるということです。 ですので、認知症などで判断能力が疑わしくなってしまうと、残念ながら遺言書を残すことができなくなります。 この辺りを確かめるように、住所や生年月日、今日は何月何日?など公証人から質問されます。

 

お母様が書いた遺言書は、財産を法定相続分通りに分けるという内容ではありませんでした。 もちろん遺留分を侵害するような分け方ではありませんが、長女との間の「ご事情」を感じるものでした。 遺言の内容は、あくまでもご本人の意志です。 長女も納得の上の遺言書ですが、ある思いがどうしても頭の片隅から離れませんでした。

 

お母様は、付言(事項)をなぜ付けなかったのか・・・

付言は法的な効力はありませんが、法定遺言事項とは別に、家族などへの想いや自分の葬儀の希望などを自由 に書くことができ、残された人たちへの最後のお手紙のようなものです。この付言を遺言書に付け加えることで、 親の思いや自分たちへの親御さんの愛情を知り、親子の絆を改めて感じてもらえたりします。 一概には言えませんが、財産分与の不平等を、親の愛情の不平等と感じてしまい、親御さんの相続をきっかけに 仲の良かった相続人同士の関係が悪くなってしまうケースも多いのです。

例えば、この遺言書にこのような付言があったらどうだったでしょう。

 

娘たちへ

私たち夫婦にとって,あなた達はかけがえのない存在で、生き甲斐でした。あなた達がいたからこそ、一生懸命働 くことができて、家族四人で暮らした家も持つことができました。 あなた達二人に遺す財産は、亡くなったお父さんと二人でこつこつと働いて貯めたものです。 長女には、今まで通り実家に住んでもらいたいと思います。生命保険も大きな金額ではありませんが受け取りは長女にしてあります。何かのときに役立ててください。 次女には、これから先お世話になります。ですから、できるだけの現金を残したいと思っています。 私なりによく考えて決めた分け方なので、どうか理解してくださいね。 二人に対する私の気持ちは平等です。小さいころから仲の良かった姉妹ですから、これからも困ったときにはお互 いに助け合って、二人が仲良く幸せに暮らしてくれることが、私の心からの願いです。

・・・この方に限らず、財産を法定相続分どおり分けることは極めて難しいです。それぞれの「役割」の差もあるでし ょう。ご事情があるのは充分理解できましたが、お二人ともおなかを痛めて産んだ子で、平等に愛情を掛けて育て られてこられたと想像すると、本当は、今の娘さんたちに伝えたい「親の想い」があったのではないか・・・と。

 

小雨になった帰り道、大勢の人が足早に通り過ぎる駅を前に、 「こちらには慣れましたか?」と、話しかけると、 「何度か来ているから」と、その日初めて笑顔を見せてくれました。 その笑顔を見て、「お母様の想いが、娘さんたちに届きますように・・」という気持ちでお二人を見送りました。

日々の業務の中でも「想いを伝える」ことを大切にしていますが、私達の活動を通して、一人でも多くの方に遺言書を書いてもらい、そしてその想いが残されたご家族の心の中に生き続けることで、より家族の絆が深まっていくことを願っています。

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